ユウユの映画の時間

ディズニーすきです

『バズ・ライトイヤー』感想(ネタバレなし)

〈あらすじ〉

有能なスペース・レンジャーのバズは、自分の力を過信したために、 1200人もの乗組員と共に危険な惑星に不時着してしまう。
彼に残された唯一の道は、全員を地球に帰還させること。
猫型の友だちロボットのソックスと共に、不可能なミッションに挑むバズ。
その行く手には、孤独だった彼の人生を変える“かけがえのない絆”と、 思いもよらぬ“敵”が待ち受けていた…

引用:https://www.disney.co.jp/movie/buzzlightyear/about.html

 

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字幕IMAX、吹替2Dの2回観てきました。ピクサー映画としては『2分の1の魔法』(2020)以来2年振り、長編としては3作品振りの劇場公開ということで期待値は自然と上がっていました。ですが、その期待虚しく皆さんご存知の通り批評的にも興行的にもややコケ気味のこの『バズ・ライトイヤー』。

 

ピクサー映画では珍しい“スピンオフ作品”。『モルデューの伝説』(2012)などスピンオフの前例はないわけではないのですが、劇場用長編映画では、(例えば時系列が前に戻る作品はあっても、)いわゆるスター・ウォーズの『ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー』(2018)みたいな主人公をひとりだけピックアップしたスピンオフ作品はこれまでなかったわけです(追記:『ファインディング・ドリー』とかあったわ)。スピンオフ作品の難しい部分は、自由に話を作りづらく整合性を気にしないといけないところだと思います。つまり、シリーズファンの重圧があるということです。私は『スペース・レンジャー 帝王ザーグを倒せ!』(2000)が大好きなのでこの映画にプレッシャーかけてた側の人間として反省しないといけないですね。みんなの観たかったバズはおそらく『トイ・ストーリー2』(1999)の冒頭のゲームのシーン。アトラクション「バズ・ライトイヤーアストロブラスター」(2004〜)のイメージの人も多かもしれませんね。『〜帝王ザーグを倒せ!』とアニメシリーズファンは少数派ですかね。いずれにしてもバズのヒーロー的な側面が前面に押し出されている作品です。そのイメージで映画を作ることもピクサー内で想定されているはずで、問題はなぜ今回のような作品になったのか。

 


それはディズニープラスで配信中のドキュメンタリー『無限の彼方へ:バズと『バズ・ライトイヤー』への旅』(2022)で作り手たちが導いたバズの魅力があったからだと推測できます。ドキュメンタリー内でバズの面白い部分はおもちゃであるという点にあったと語られています。バズの責任感が人一倍強い頑固な「レンジャーである」側面が、おもちゃである(おもちゃでしかない)という「おもちゃである」側面とのギャップで絶望し、そこから回帰する『トイ・ストーリー』(1995)はバズという存在を端的に表した今見ても優れた作品という事が改めてわかります。。『〜帝王ザーグを倒せ!』ではマニュアルを隅から隅まできっちり覚えているほどの生真面目なバズがミッションで相棒を失うことで他人を傷つけないために自分の殻に閉じこもり、自分を支えてくれる仲間とも向き合わない姿が描かれます。

 


本作『バズ・ライトイヤー』(2022)でも任務に囚われるバスが描かれています。ディズニー映画では『ナビゲイター』(1986)あるいは庵野秀明監督アニメ『トップをねらえ!』(2004)に代表されるウラシマ効果を用いて、バズの魅力は描かれています。どういうことかというと、アンディは成長して大人になっていくけれど、おもちゃたちは同じ姿のまま時が経つ構造をあのウラシマ効果で「おもちゃである」バズを表現しているということです。また、自分の責任を背負って時間を犠牲にして飛び続ける「レンジャーである」バズも描いています。他人に向き合わないまま飛行を続けて4年を費やしつづける展開は『〜帝王ザーグを倒せ!』やMCU繋がりでは『ドクター・ストレンジ マルチバース・オブ・マッドネス』(2022)、『ソー:ラブ&サンダー』(2022)と繰り返し語られています。この作品はバズのスピンオフとして原点に立ち返って、彼のパブリックイメージの解体を狙っているということになります。アンガス・マクレーン監督も弱さを描きたいと語っていました。

 


また、ウラシマ効果はバズの「おもちゃである」部分と「レンジャーである」部分とは別に作り手自身の思いも込められています。それはみなさんご存知の新型コロナウィルスによるパンデミックです。コロナで失われたこの時間は無駄だったのかという問いです。私はちょうど高校生の頃にパンデミックが発生して、みなさんと同じように修学旅行や文化祭などのイベントが軒並み中止になりました。振り返ってみると中学時代とは思い出に残る決定的な体験がないように思えます。ですが、この映画はそこに待ったをかけます。コロナ禍がなければ映画を今ほど観ることもなく、Twitterも始めておらず、映画館のありがたみを知ることも無かったです。たしかにコロナ禍は、さっき挙げたような良くないことの方が断然多いです。ピクサースタジオ的にも『ソウルフル・ワールド』(2020)、『あの夏のルカ』(2021)、『私ときどきレッサーパンダ』(2022)がディズニープラス配信に回され、ドミー・シー監督の「でかいスクリーンでレッサーパンダが観たい!!」という夢も叶いませんでした。それでも、今あるコミュニティを大切にして、再び人生を歩んでいこうというメッセージをピクサースタジオが送る久々の劇場公開映画でやることはとても意味があると思いました。私たち、そして作り手たち自身を救ってくれるような映画でした。

 


しかし、作り手たちはバズというキャラを考えすぎました。この映画はアンディがバズを買った理由になった旨の内容がご丁寧に映画の最初に語られます。「ウッディのラウンド・アップ」(『トイ・ストーリー2』作品内作品)があったようにバズにもおもちゃ化に至った作品があったことは示されてきました。『トイ・ストーリー2』の『スター・ウォーズ 帝国の逆襲』(1980)のオマージュシーンからわかる通り大規模宇宙SFがあったんだなと想像し、本作に期待を寄せた人は多いと思います。スターウォーズを観て感動を受けたあの忘れがたい瞬間をアンディとともに追体験できるような映画であってほしいと私は願いました。本作が決して悪い映画とは言いませんが、期待はずれだったのは確かです。スターコマンドやクリスタルフュージョンなどお馴染みの用語は登場するも、いまいち謎なまま終わってしまいます。スピンオフの難しい部分ですが、さすがにスターコマンド!何してるんだ君たちは!


https://twitter.com/gemararara/status/1543973983884025856?s=21&t=jsIRPRLNGES8fUVt-_xwvA


ウラシマ効果に関しても超スピーディー解説で、1、2回ではちょっと理解できなかったですね。惑星を移動するとスターコマンドが関与してると思われる施設があったりして、普通に助かりそう、新しい燃料を見つけなくてもいけそうな感じがあるのも問題だと思います。自販機があるってことは搬入してるやつがいるってことでしょ?!という感じで、こちら側が受け取る印象としてバズに対する考察を重ねた上での『トイ・ストーリー4』(2019)と鏡写となるような成長映画というよりかはよくわかんないSF映画として受け取られてしまっているのが現状だと思います。(ウッディというキャラを考察した映画が『トイ・ストーリー4』だとすれば「観たかったやつと違う」という意味では一致しているかもしれませんが...。)

下ネタに関してなど、良くない意見は割と見受けられるのでこの辺で止めておきます。

 


監督の話をすると、アンガス・マクレーン監督は『にせものバズがやって来た』(2011)で有名です。彼の手腕としてよく挙げられるのが「最小限の動きで最大限の笑いを生み出す」だと思います。『にせものバズ〜』で私が偏愛している部分はラストで、不良品のロクシー・ボクシー(ロケットパンチを打つボクサーの亀)の腕が発射され、DJ・ブルージェイ(DJの青い鳥)がスクラッチをするという(文面では伝わらないけど)面白いシーンがあります。スクラッチしただけで面白いというスマートさ!!本作にもその手腕は存分に発揮されていました。みんながバズよりも欲しくなっちゃってるでお馴染み猫型ロボの“ソックス”は監督の手腕が詰め込まれた存在でした。ザーグのロボットが母艦に転送されるくだりはちょっとしつこいいですが、ご愛嬌ということで。


期待はずれではあったものの、どこぞの某レンジャーズ映画よりは全然好きな映画でした。『モンスターズ・インク』(2001)のような複雑な設定を分からせる力は欲しかったですが、ウラシマ効果にここまで作品の役割を置くことができるピクサースタジオは素晴らしいと思いました。評判はあまり良くないですがやはり劇場で観るべき映画だと思いました。